この記事の要点
- 筆者はSES企業を経営しており、エージェントとは一部競合する立場。条項の法的な有効性については判断しない。確認したという事実までを書く。
- 競業避止・直接契約の禁止。契約終了後◯年間、そのクライアントと直接契約できない。将来エージェントを外す選択肢が制限される。
- 発注側から見れば、要員が抜ければ契約の売上が止まる。引き留める動機は構造的にある。これは一般論であり、特定の会社がそうしているという主張ではない。
- 著作権の帰属と実績公開の可否。「社名は伏せて構成図のみ可」という範囲を文面で取り交わした。
- 実績として公開できる範囲が決まっていないと、次の案件の提案材料に使えない。
- 契約形態は準委任(善管注意義務)。成果物の完成義務ではない。精算幅の下限も同じタイミングで確認する。
フリーランスエージェント経由で初めて契約書を受け取ると、分量の多さに戸惑います。どこから読めばいいのか分かりません。
この記事では、筆者が常駐の準委任契約を結んだときに実際に確認して、確認しておいてよかったと思った2つの条項だけを書きます。契約書の読み方の一般論は扱いません。
筆者はSES企業の経営者で、エージェントとは一部競合します
先に立場を開示します。
筆者はフリーランスエンジニアとして複数のエージェントに登録し、面談を受けてきました(2026年10月10日時点の自己記録より)。同時にSES企業を経営し、案件を発注する側でもあります。つまりフリーランスエージェントとは、一部で競合する立場です。
自社が受注するのは基本的に2次請けか3次請けです。エンド直はほぼ無理です(エンド企業は取引先に最低資本金1億円といった条件を課すところがほとんどで、設立したばかりの会社では届きません)。典型的な商流は「エンド企業 → 元請けSIer(1次)→ 自社(2次)→ 要員」という形です(同、自己記録より)。
この記事の守備範囲も先に書いておきます。
- 競業避止条項が法的にどこまで有効かは判断しません。筆者は法律の専門家ではありません。書くのは「条項を確認した」という事実までです
- 違反した場合にどうなるか、判例がどうなっているかも扱いません
- 確認した契約書は1件のみです。他社の契約書の傾向は書けません
- 条項を削除・修正する交渉については、筆者に経験がないため書けません
「2条項を確認せよ」と煽る記事ではありません。1件の実例として読んでください。
確認した契約は準委任。成果物の完成義務ではない
2条項の話に入る前に、契約形態を確認します。
筆者が結んだのは準委任契約でした(本人の常駐案件の実体験、2026年10月10日時点の自己記録より)。
準委任契約は、成果物の完成を約束する契約形態ではありません。負うのは善管注意義務です。これは「善良な管理者としての注意をもって業務にあたる義務」を指します。つまり、決められた成果物を完成させる義務ではなく、相応の注意を払って業務にあたる義務を負う、という形です。
同じ契約書には、精算幅140時間〜180時間(中間160時間基準)も定められていました(同、実体験)。この数字は後半でもう一度扱います。
なお秘密保持や再委託の条項については、今回の記録で内容を確認していません。本記事では扱いません。
1つ目:契約終了後◯年、そのクライアントと直接契約できない条項
確認しておいてよかった条項の1つ目は、競業避止・直接契約の禁止です(本人の常駐・準委任契約での実体験、2026年10月10日時点の自己記録より)。
競業避止とは、ここでは「契約が終わったあと、同じクライアントと直接取引することを制限する」という意味の条項です。筆者の契約書には、契約終了後◯年間、そのクライアントと直接契約できないという内容が入っていました。
年数については、本記事では具体的な数字を出しません。手元に残した記録に年数の明記がないためです。記憶で「2年」「3年」と書くことはしません。
確認してよかったと思った理由
理由は1つです。
「将来エージェントを外して、クライアントと直接受ける」という選択肢が、契約書の時点ですでに制限されていると分かったからです。
常駐で働いていると、現場との関係は積み上がっていきます。「この先もこの現場なら、間を抜いて直接契約したほうが単価が上がるのでは」と考える場面は、自然に出てきます。
その選択肢がそもそも契約上どう扱われているのか。これは案件が始まったあとに調べるより、署名前に文面で確認しておいたほうが、判断の前提が揃います。筆者の場合、「この案件は、終わったあとも一定期間は直接には戻れない前提で見る」と最初から整理できました。
繰り返しますが、この条項が法的にどこまで有効か、違反するとどうなるかは筆者には判断できません。そこは踏み込みません。
発注側から見ると、引き留める動機は構造的にあります
ここからは、SES企業を経営して発注する側としての視点です。特定の会社がそうしているという主張ではなく、構造の話として読んでください。
発注する側から見れば、要員が抜ければその契約の売上は止まります。だから引き留める動機は、構造的に必ずあります。これは善悪の話ではなく、商流にマージンが乗っている以上そうなる、という話です。
自社が関わる商流での実数を出します。商流が1つ挟まるごとに、おおむね10〜15%のマージンが発生します。自社(2次)のマージンは15%です(2026年10月10日時点の自社記録より)。
エンド発注額100万円/月の場合の内訳です。
| 段階 | マージン | 残額 |
|---|---|---|
| エンド発注 | — | 100.00万円 |
| 元請け(1次) | 15% | 85.00万円 |
| 自社(2次) | 15% | 72.25万円 |
| 3次SES | 10% | 65.03万円(要員へ) |
※エンド発注100万円/月を基準としたとき、要員に渡る65.03万円との差は34.97万円/月です。この差額が各段階の取り分になります(自社および自社が関わる商流での実数。エージェント各社のマージン率ではありません)。
要員が1人抜けると、この列の各社の売上が同時に止まります。だから契約書に引き留めの条項が入る動機は、どの段階にも存在します。
ただし、各社が何を考えてどう条項を設計しているかは、他社の社内判断です。断定しません。書けるのは「動機が構造的に存在する」というところまでです。
商流の深さが手取りをどう動かすかは、別記事に自社の実数をまとめています。フリーランスの手取りはマージン率より商流で決まる|SES経営者が自社の実数を出して説明します
2つ目:実績として公開できる範囲を文面で取り交わした
確認しておいてよかった条項の2つ目は、著作権の帰属と、実績公開の可否です(本人の常駐・準委任契約での実体験、2026年10月10日時点の自己記録より)。
筆者の契約では、「社名は伏せて構成図のみ可」といった範囲を、文面で取り交わしました。
確認してよかったと思った理由
公開できる範囲が決まっていないと、その案件の実績を、次の案件の提案材料に使えないからです。
常駐案件は、終わると手元に何も残らないことがあります。コードはクライアントのもの、資料もクライアントのもの。では次の面談で何を見せるのか、という問題が起きます。
「社名は出せないが、構成図は出してよい」と文面で決まっていれば、少なくともその範囲は迷わず使えます。逆に何も決めていないと、使ってよいのか毎回確認するところから始まります。
面談で語れる内容と、公開してよい範囲は別物です
ここは分けて考える必要があります。
エージェント面談では、技術スタックだけでなく「直近のプロジェクトでどんな意思決定をしたか」「トラブル時にどう対応したか」を深掘りされました(レバテックフリーランス等での面談実体験、2026年10月10日時点の自己記録より)。
こうした話は、口頭であれば語れる場合があります。一方、ポートフォリオサイトや登壇資料として公開してよいかは別の判断です。
| 面談で語る | 公開する | |
|---|---|---|
| 扱われ方 | 相手が限定される | 不特定多数が見る |
| 筆者の契約での扱い | (本記事では扱いません) | 社名は伏せて構成図のみ可 |
※面談での発言の扱いは、今回の記録で確認していないため書けません。
公開範囲が文面にある、という状態そのものが確認の成果でした。
同じタイミングで精算幅の下限と支払いサイトも確認しました
契約書を見るなら、条項と一緒に金額条件も確認しておくと二度手間が減ります。筆者が同時に確認したのは2つです。
精算幅の下限
精算幅は140時間〜180時間(中間160時間基準)でした(本人の実体験、2026年10月10日時点の自己記録より)。精算幅とは、月の稼働時間がこの範囲に収まっていれば単価が変動しない、という取り決めです。
実際に範囲を外した月の記録です。
| 稼働時間 | 計算対象 | 計算式 | 結果 | |
|---|---|---|---|---|
| 超過した月 | 195時間 | 180時間を超えた15時間 | 単価 ÷ 160時間 × 15時間 | 超過手当が全額上乗せ支給 |
| 下回った月 | 130時間 | 140時間を下回った10時間 | 単価 ÷ 160時間 × 10時間 | 同額が控除 |
注意点として、営業日が少ない月(5月・8月・12月・1月)は下回り控除のリスクがあります。上の130時間の月は年末年始でした。上振れだけでなく下振れもある仕組みなので、署名前に下限の数字を見ておく意味があります。
金額がどう動いたかの詳細は別記事にまとめています。準委任の精算幅140〜180時間を実際に外した話|195時間の月と130時間の月でいくら動いたか
支払いサイト
支払いサイトとは、締め日から入金までの期間のことです。会社によって差がありました(本人の実体験、2026年10月10日時点の自己記録より)。
| 契約先 | 支払い条件 |
|---|---|
| レバテック | 月末締め翌月15日払い(本人の実体験。公開情報とも一致) |
| 他社SES/エージェント | 30日〜45日サイト(翌月末・翌々月5日払いなど) |
月末締め翌月15日払いと、翌々月5日払いとでは、初回入金までの待ち時間が変わります。開業直後で手元資金が薄い時期は、ここを先に見ておくと資金繰りの見通しが立ちます。
この記事で書いたこと、書かなかったこと
最後に範囲を整理します。
| 書いたこと | 書かなかったこと |
|---|---|
| 競業避止・直接契約禁止の条項を確認した事実 | その条項の法的有効性、違反時の扱い、年数の具体値 |
| 著作権帰属・実績公開可否を文面で取り交わした事実 | 他社の契約書がどうなっているかの傾向 |
| 発注側に引き留めの動機が構造的にあること | 特定の会社がどう考えて条項を設計しているか |
| 精算幅140〜180時間と支払いサイトの実数 | 秘密保持・再委託など、今回確認していない条項 |
確認した契約書は1件です。一般化できる話ではありません。ただ、契約終了後の選択肢と、実績として公開できる範囲は、契約書の時点ですでに決まっているという点は、署名前に知っておいて損のない事実だと思っています。


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