この記事の要点
- これは2018年1月の判断。消費税・インボイス・社会保険料率など、制度は当時と変わっている。1社の事例であり、税務の助言ではない。
- 売上約800万円・利益約600万円のときに法人化した。事前に「この額で」という線は決めていなかった。
- 決め手は税金ではない。SESをやるには法人でないと取引できず、人を雇って会社を成長させる必要があった。事業の形が法人を要求した。
- 増えた固定費の実額は、税理士費用が年30万円、社会保険の会社負担が社員3人で35万円。社保は給与額で変わるので、他社に当てはまる数字ではない。
- 設立直後の役員報酬は0円。雇用ではなく、フリーランスを集めて案件に流す形から始めた。社会保険の会社負担は設立と同時には発生していない。
- 最初は税理士を付けず会計ソフトで自分で提出していた。分からないたびに税務署へ行って確認していた。
- 後悔していない。もう一度選べるならもっと早める。
- 法人化しないほうがいいのは「1人社長で利益が800万円ない場合」。法人化シミュレーターが示す分岐点(利益700〜800万円台)と一致した。
「法人化は利益いくらから」。この問いで検索すると、800万円、1000万円といった目安がいくつも出てきます。この記事は、その目安とは違う順序で法人化した1人の記録です。
筆者(当サイト運営者)は2018年1月、個人事業からSES企業を設立しました。そのときの利益は約600万円。自分でも「1人社長なら利益800万円ないと法人化しないほうがいい」と考えているのに、それより下で踏み切っています。矛盾しているように見えますが、理由があります。
- この記事は2018年1月の判断の記録です(制度は当時と変わっています)
- 踏み切ったのは売上約800万円・利益約600万円のとき。事前に線は決めていなかった
- 決め手は税金ではなかった|SESは法人でないと取引できなかった
- 「利益いくらから」という問いが当てはまらない場合がある
- 設立直後は役員報酬0円だった。固定費は最初から増えたわけではない
- 法人化して増えた固定費の実額|税理士30万円・社会保険の会社負担35万円
- 最初は税理士を付けず、会計ソフトで自分で出していた|分からないたびに税務署へ行った
- 計算上の分岐点(利益約735万円)と、筆者の実感(800万円)は近かった
- 本人の結論|法人化してよかった。もう一度選べるならもっと早める
この記事は2018年1月の判断の記録です(制度は当時と変わっています)
先に前提を3つ置きます。読み飛ばさずに確認してください。
- これは2018年1月時点の判断です。その後、消費税の扱い(インボイス制度)や社会保険料率は変わっています。当時の数字をそのまま現在の制度に当てはめることはできません。
- 1社の事例です。業種はSES(システムエンジニアリングサービス)。取引先の条件が特殊な業界で、他業種にそのまま当てはまる話ではありません。
- 税務・法務の助言ではありません。「こうすべき」ではなく「こう判断した」の記録です。
記事中の売上・利益は、本人が公開に同意した概算値です。それ以上細かい数字は書きません。
出典は2026年10月27日時点の運営者本人の記録です。以降の数値もすべて同じ出典で、セクションごとに再掲します。
踏み切ったのは売上約800万円・利益約600万円のとき。事前に線は決めていなかった
まず実数を出します。
| 項目 | 実際 |
|---|---|
| 法人化した時期 | 2018年1月 |
| そのときの個人事業の売上 | 約800万円 |
| 利益(売上−経費) | 約600万円 |
| 事前に「この額で法人化する」と決めた線 | なかった |
(2026年10月27日時点の運営者本人の記録より。金額は本人が公開に同意した概算値)
注目してほしいのは最後の行です。「利益が○○万円を超えたら法人化する」という線を、事前に決めていませんでした。
法人化の記事を読んでいると、多くは「分岐点を計算して、超えたら動く」という流れで書かれています。筆者の場合はその流れではありませんでした。数字が先ではなかったからです。
決め手は税金ではなかった|SESは法人でないと取引できなかった
本人が挙げた理由は2つです。
- SESをやるなら法人でないとできない(取引先の条件)
- フリーランスや正社員を雇って売上にし、会社を成長させるため
本人の言葉では「フリーよりも将来の安定」。
SESは、エンジニアの稼働を客先に提供する契約形態です。自分が働くだけでなく、他の人の稼働も扱うようになると、取引先から法人であることを条件にされる場面が出てきます。筆者のケースでは、その条件が先にありました。
税負担の軽減は動機ではありません。これは本人の記録にはっきり書かれています。
つまり順序はこうです。
| よくある順序 | 筆者の順序 | |
|---|---|---|
| 1番目 | 利益が増える | やりたい事業の形が決まる |
| 2番目 | 税の分岐点を計算する | その形が法人を要求する |
| 3番目 | 超えたので法人化する | 法人化する(利益は約600万円) |
(2026年10月27日時点の運営者本人の記録をもとに整理)
事業の形が法人を要求した、という順序です。利益600万円という数字は、結果としてそうだったというだけで、判断の根拠ではありませんでした。
「利益いくらから」という問いが当てはまらない場合がある
ここで、冒頭に書いた矛盾に戻ります。
本人は「法人化しないほうがいい人」として「1人社長で、利益が800万円ない場合」を挙げています。一方で、自分は利益約600万円で法人化しました。800万円の線より下です。
これは言っていることが変わったわけではありません。税の損得で決めていないからです。損得計算の線と、本人が実際に動いた理由が、別のものとして存在しています。
整理すると、「利益いくらから」という問いが有効なのは、次の条件のときです。
- 1人で事業を続ける前提である
- 取引先から法人であることを求められていない
- 人を雇って売上を伸ばす計画が、今のところない
この3つが揃っているなら、判断材料は税と社会保険の損得がほぼすべてになります。計算で決められます。
逆に、どれか1つでも外れているなら、金額の計算は判断の一部でしかありません。筆者の場合は、取引先の条件と人を雇う前提が、金額の判断より先に立っていました。
自分がどちらに当てはまるか。そこを先に分けておくと、目安の数字をいくつ読んでも決まらない状態から抜けやすくなります。
設立直後は役員報酬0円だった。固定費は最初から増えたわけではない
ここまで「人を雇って成長させるため」と書きましたが、順序を正確にしておきます。設立した直後に人を雇ったわけではありません。
設立直後の実態はこうでした(2026年10月28日取得の運営者本人の記録より)。
- 役員報酬は0円。自分への報酬を出していません。
- 主にフリーランスを集めて、案件に流していた。雇用ではなく業務委託で人を動かす形から始めています。
これは費用の面で意味があります。役員報酬が0円なら、その分の社会保険の会社負担も発生しません。下に出てくる「社員3人で年35万円」は、設立当初の数字ではないということです。
法人化を考えるときに「社会保険の会社負担が重い」という話をよく見ますが、筆者のケースでは、その負担は設立と同時には来ていません。雇用を始めた段階で来ています。順番が違うと、法人化そのもののハードルを実際より高く見積もることになります。
役員報酬0円の期間、筆者は自分がフリーランスとして稼いだ分で生活していました(2026年10月28日取得の運営者本人の記録より)。会社から報酬を取らず、個人としての稼ぎで生活を回しながら、会社では案件と人を集めていた形です。
法人化して増えた固定費の実額|税理士30万円・社会保険の会社負担35万円
法人化すると増える費用があります。実額で出せるのは次の2項目です。
| 項目 | 年額 | 備考 |
|---|---|---|
| 税理士費用 | 30万円 | 設立当初はかかっていない(後述) |
| 社会保険の会社負担 | 35万円 | 設立当初ではない。社員3人になった段階の本人申告値 |
| 均等割 | 未確認 | 本人記録に記載なし |
(2026年10月27日時点の運営者本人の記録より)
社会保険の会社負担について、注意点を先に書きます。
社会保険とは、健康保険と厚生年金などの総称です。法人は原則として加入することになり、保険料は会社と従業員で分担します。会社が負担する分が、法人化で新しく増える固定費です。
この「社員3人で年35万円」は、他社に当てはまる数字としては扱えません。社会保険料は給与額に料率をかけて決まるためです。筆者のケースでは社員の給与額を記録していません。給与水準が分からない以上、一般的な負担率と照合することもできませんでした。
つまり「3人雇うと年35万円くらい」と読むのは誤りです。あくまで、この会社のこの時期の実額として記録しておきます。
そして、確認できていない項目も正直に書いておきます。
- 均等割の実額:未確認。法人には赤字でも課される地方税がありますが、本人記録に金額の記載がありませんでした。
- 社員の給与額:記録になく、書けません。社保35万円の内訳にあたるため、推測で埋めることもしません。
- 事務の手間が月どれくらい増えたか:未確認。
- 「思ったより大変だった/楽だった」という感想:本人記録に未記入。
法人化の体験談でよく語られるのは、最後の2つです。この記事では書けません。聞き取りの時点で記録がなかったためです。
最初は税理士を付けず、会計ソフトで自分で出していた|分からないたびに税務署へ行った
前節の税理士費用30万円について、補足があります。
法人化した当初、税理士は付けていませんでした。会計ソフトを使って、自分で申告書を作って提出していたそうです。
分からないことが出てくるたびに、税務署へ行って確認していました。これが当時の進め方です。
(2026年10月27日時点の運営者本人の記録より)
つまり年30万円は、法人化と同時に発生した固定費ではありません。あとから増えた費用です。ただしいつ税理士に切り替えたのか、その時期は本人記録に残っていません。何年目から30万円がかかり始めたかは書けません。
この経過から言えることは1つだけです。法人化直後の固定費を見積もるとき、税理士費用を最初から満額で入れると実態より重くなる可能性があります。逆に、自分で申告する期間は税務署に通う時間がかかります。どちらを選ぶかは、その人の使える時間次第です。
なお、設立手続きそのものの流れや費用は、この記録の範囲外です。設立直後の実務については、法人口座の開設を扱った別記事があります。
計算上の分岐点(利益約735万円)と、筆者の実感(800万円)は近かった
当サイトの法人化シミュレーターで計算すると、経費を売上の30%とした場合の分岐点は売上1,050万円・利益約735万円付近です(2026年10月28日取得の運営者本人の記録より)。
8年経営した筆者の実感としては、1人社長なら利益800万円がないうちは法人化しないほうがいいと考えています。計算と実感が近いあたりを指していました。
利益帯ごとの差額、分岐点より下で損になる理由、前提を変えたときの動きは法人成りの損益分岐点を計算した記事にまとめています。
筆者が法人化したのは利益約600万円の時点で、この分岐点とは別の理由で決めています。数字は目安であって、判断の根拠ではありませんでした。
本人の結論|法人化してよかった。もう一度選べるならもっと早める
最後に、後悔しているかどうかです。
- 法人化してよかったと思っている
- もう一度選べるなら、もっと早める
- 法人化しないほうがいい人は「1人社長で、利益が800万円ない場合」
(2026年10月27日時点の運営者本人の記録より)
「もっと早める」という答えは、税の損得から出たものではありません。SESという事業の形を取るなら法人が前提で、人を雇って売上にする計画も早い段階からあった。だったら早いほうがよかった、という話です。
この記録から読者が持ち帰れることは、たぶん次の1点です。
「利益いくらから」を調べる前に、自分が1人で続ける前提なのかを決めておく。1人で続けるなら計算で決まります。そうでないなら、取引先の条件や採用の計画のほうが先に答えを出します。筆者はそちらでした。
なお、ここに書いたのは2018年1月時点の1社の記録です。制度は変わっています。実際の判断は、現在の制度にもとづいて、ご自身の数字で確認してください。


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