この記事の要点
- 最適な役員報酬は利益600万でも900万でも360万円。利益に比例して上げるのが最適ではない
- 役員報酬を動かすと法人税・所得税・住民税・社会保険が同時に動くため手計算できない
- 給与所得控除の段差と、厚生年金の標準報酬月額の上限65万円が効く位置にある
最適な役員報酬は利益に比例しない:計算の前提と、手計算できない理由
この記事は税務相談ではありません。正確な額は税理士に確認してください。ここで示す数値は実効税率による概算です。出典は2026年10月28日に取得した、当サイトの法人化シミュレーターの仕様書(tools/SPEC_houjin_simulator.md)と検証スクリプト(tools/verify_houjin.py)です。対象は令和8年(2026年)分です。
前提は3つあります。1つ目は1人会社であることです。会社の金も本人の金として、手残りを合算しています。2つ目は社会保険料率が協会けんぽ東京・令和8年度のものであることです。他県では異なります。3つ目は法人税等を実効税率で概算していることです。利用者が変更できる値で、正確な法人税額は決算で確定します。
この計算は、役員報酬を5〜10万円刻みで全探索し、手残りが最大になる額を返します(2026年10月28日取得の仕様書より)。結果の軸は、利益が増えても最適な役員報酬は比例して上がらないことです。
手計算できない理由は、役員報酬を1つ動かすと複数の税と社会保険が同時に動くからです。役員報酬は法人の経費になるため、法人税等が変わります。同時に個人の給与所得として所得税と住民税が変わり、社会保険料も変わります。どれか1つだけを計算しても、他への影響が残ります。そのため全パターンを比べる必要があり、それがツールの役割です。
法人化の判断がまだの方は、利益600万円で法人化した記録を先にご覧ください。計算は法人化シミュレーターで試せます。
利益帯ごとの最適額:利益600万・900万は360万円、1,500万・2,200万は520万円に張り付く
以下は2026年10月28日取得の仕様書にある計算結果です。表にない利益帯の値は、この記事では書いていません。
| 売上 | 利益 | 個人のまま | 法人化 | 差額(法人−個人) | 最適な役員報酬 |
|---|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 350万円 | 2,679,888円 | 2,194,203円 | −485,686円 | 2,790,000円 |
| 800万円 | 600万円 | 4,279,988円 | 4,031,535円 | −248,454円 | 3,600,000円 |
| 1,200万円 | 900万円 | 5,991,906円 | 6,341,535円 | +349,628円 | 3,600,000円 |
| 2,000万円 | 1,500万円 | 9,182,179円 | 10,682,413円 | +1,500,234円 | 5,200,000円 |
| 3,000万円 | 2,200万円 | 12,674,754円 | 15,302,413円 | +2,627,658円 | 5,200,000円 |
注目点は2つです。利益600万円と900万円では、最適な役員報酬がどちらも360万円です。利益1,500万円と2,200万円では、どちらも520万円です。利益が増えても、最適額が同じ帯があります。
デメリットも書きます。利益350万円と600万円では、差額がマイナスでした。法人化すると、個人のままより手残りが減る結果です。利益900万円で差額がプラスに転じています。
筆者はこの表の「法人化」の列を、最適な役員報酬を設定したときの手残りと読んでいます。仕様書の文言からは断定できないため、この読みは筆者の判断です。
損益分岐点は前提に依存します。経費を売上の30%とした場合、売上1,050万円(利益約735万円)付近で法人が有利に転じました(同仕様書の全探索結果より)。前提を変えれば、この分岐点も動きます。「役員報酬は◯◯万円にすべき」とは、この表から言えません。
なぜ同じ額に張り付くのか:給与所得控除の境目と、厚生年金の頭打ち
以下は2026年10月28日取得の仕様書にある計算式の段差です。ツールは要因ごとの寄与を分解して出力していません。段差の位置を並べたもので、因果を断定するものではありません。
給与所得控除(令和8・9年分)は、収入によって計算式が変わります。
- 1,625,000円以下:550,000円
- 1,800,000円以下:収入×40%−100,000円
- 3,600,000円以下:収入×30%+80,000円
- 6,600,000円以下:収入×20%+440,000円
- 8,500,000円以下:収入×10%+1,100,000円
- 8,500,000円超:1,950,000円(上限)
最低保障は、令和8・9年分で65万円から740,000円に上がっています。
最適額360万円は、この式の切り替え点3,600,000円と一致します。360万円に張り付いた帯では、この境目が関係している可能性があります。ただし仕様書から寄与は分からないため、これは筆者の推測です。
社会保険は上限が別々です。標準報酬月額の上限は、健康保険が1,390,000円、厚生年金が650,000円です。厚生年金は高額報酬で頭打ちになります。
520万円を12で割ると、月約43万円です。厚生年金の上限である月65万円より下の額になります。そのため520万円の帯は、厚生年金の上限に当たっていない額です。上限の影響で520万円に張り付いたとは、この数字だけでは言えません。
法人実効税率(既定値)は、法人所得800万円以下が23%、800万円超が34%です。ここにも段差があります。
1人会社では社会保険を労使合計で見る:会社負担分も自分の手残りから出ている
以下は協会けんぽ東京・令和8年度の料率です(2026年10月28日取得の仕様書より)。
| 区分 | 料率 | 負担 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 9.85% | 労使折半 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 労使折半 |
| 介護保険(40〜64歳) | 1.62% | 労使折半 |
| 厚生年金 | 18.30% | 労使折半 |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 事業主が全額 |
1人会社では、会社負担分も会社の金であり、その会社は本人のものです。そのため、手残りは労使合計で計算しています。会社が払う分を別の話として扱うと、手残りは実際より多く見えます。
仕様書に基づく、法人化で手残りが減る理由は3つです。
- 社会保険が労使合計で発生する
- 税理士費用が年300,000円(既定値)かかる
- 法人住民税の均等割70,000円は、赤字でもかかる(資本金1,000万円以下・従業員50人以下の場合)
設立費用は既定で0円です。定常状態で比較するための設定です。設立初年度の費用は含まれていません。
この記事は社会保険料を下げる手法を扱いません。料率と負担の区分を示すだけです。
計算に含めていないもの:役員賞与や退職金を使えば最適額は変わる
全探索の結果は、以下の制度や費用を含めていません(仕様書より)。これらを使うと、最適額は変わります。
- 役員賞与・事前確定届出給与(決まった時期に決まった額を支払うため、事前に税務署へ届け出る制度です)
- 退職金
- 消費税(インボイス登録や2期免税の扱い)
- 社宅・出張日当
- 欠損金の繰越控除
- 都道府県による事業税・均等割の差
社会保険料率は協会けんぽ東京のものです。実効税率と税理士費用は、利用者が変更できます。
この記事は税務相談ではありません。正確な額は税理士に確認してください。自分の前提で試す場合は法人化シミュレーターをご利用ください。個人のまま働いた場合の税の計算順序は、個人事業主の税金の計算方法で説明しています。


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